−−石川さんは子供の頃からアニメーションの世界を夢見ていたのですか?
いや。子供の頃はアニメなんて全然観たことありませんでしたし、将来の夢もせいぜい「普通になりたい」と思っていたくらいでしょう。小学生の頃、僕は自分がすごく厭でした。勉強はできなかったしモテないし。ひどいときには「バイキン君」なんて呼ばれていたことも…。だから、その頃の夢は「普通になりたい」。それだけでした。そのわりに勉強なんかほとんどしなかった、運良く大学に入ってからも授業に出ず、世界中を放浪していたり…。結局、他の人と同じように過ごすより、そういう生活の方が性に合っていたんですよね。
大学を出てからは、ふと人形浄瑠璃に魅せられて文楽を始めました。どうせ自分は社会に向いてないんだから、こういう世界でやっていこう、そう思ったんですよ。でも、それ一本ではとても生活していけない世界でね、仕方なくバイトを始めることにして、そのとき入社したのが、たまたまアニメ制作会社のタツノコプロだった、というわけです。…いや、ホント人形の世界って難しいんですよ。『イノセンス』のときも、人形を扱う路線に決まった瞬間この頃のことが脳裏を過ぎり「…やばい、売れないかも、社員に悪いコトしたなぁ」なんて思っちゃったくらいですから(笑)。
−−アニメを観ないことに加え、絵も描かれなかったそうですが、どのようにしてアニメーターと円滑に仕事して来たのですか?
それこそ、文楽で人形を操っていた経験が活きたんだと思います。何となくアニメーターがキャラを動かす大変さを予想できましたし。それでいつの間にか仕事が面白くなっていて「もっと良いモノを作ろう」という想いを抱えて独立するくらい、ドップリ浸かっていたんでしょう。
社内の人間から信頼されるようになって…その頃からかな。夢が「普通になりたい」から、「格好良くなりたい」に変わっていったのは。若い頃はみんな格好良くて当たり前。でも、大人になると外見は老いるし、心も黒く醜くなっていく。それならば、僕はみんながカッコ悪くなってきた年の頃にいちばん格好良くなるような人生を歩めば良いんだ、って思ったんですよ。若い頃はTシャツにジーンズしか着なかったのに、いまさらオシャレに気を遣うようになったのもそういうこと。もう若い頃のようにTシャツ・ジーンズでは似合わないですから。
−−石川さんが思う、「カッコイイ大人」というのは?
矢沢 永吉…永ちゃんです。実はキャロル時代からの大ファンで、若い頃に買ったレコードを未だに持っています。実はこの半年で、二度も偶然お会いしているんですよ。トンカツ屋と麻布の喫茶店で(笑)。永ちゃんでもトンカツ食べるんだ…と思ったのは置いておいて、やっぱり身振りや体系、オーラ…とにかく格好良いんですよね、手を抜いていないのがよく分かる。だから色んな人から憧れられるし、信頼もされているんだと思う。
だから、カッコイイ大人には“信頼される大人である”っていうのがひとつの条件になるんじゃないかな。これは新入社員にも話をしていることなんだけど、そんな永ちゃんも、ジブリの宮崎駿さんも、最初は身ひとつで上京してきたところからのスタートなんですよ。それが成り上がりで成功を手にできたのは、純粋に、周囲の人間を惹きつけることができたからだと思っているんです。
半径5メートル以内の人から信頼されること。これが成功するための最低限の条件だと僕は考える。自分のすぐ近くにいる人にすら見放されてしまったら、やりたいことなんてできないし、夢だって実現できないと思う。だからそのためには、時として我慢しなくちゃいけないシーンもある。僕のやってる仕事なんて、まさにそうだよね。さっき、アニメはみんなで作るもの、とか言ったけど、直接作品を創り上げていくのはアニメーターや監督さん。絵の描けない僕は、代わりに他の誰にも描けない“プロダクション
I.Gの未来図”を描いている。そしてそれは、1人では絶対に実現することができないから、僕は現場の人たちを最優先に尊重しなきゃいけない。極端な例だけど、監督から「イシカワ、お前、映画に出演しろ」って言われたらイヤでも出なきゃいけないわけですよ。
−−確かに、昨年公開の押井監督作品『立喰師列伝』では、石川社長自ら好演されていましたね。あのときも、そうした配慮からですか?
プロデューサーとしては、監督に会社の身の丈にあったものを作ってもらう必要がある。予算もアテもないのにハイクオリティすぎる作品を制作しようとしたら、プロダクション
I.Gは破産してしまいますからね。時には自由に、時には資金を掛けて死ぬ気で挑む…そういうサイクルが大切なんですよ。
ちょうど『イノセンス』で16億という巨額の資金を押井さんに預け、彼にも「オレこんなに渡されても、どう作ったらいいかわかんねぇよ」なんて苦笑いされたばかりだったので、その直後の作品である『立喰師列伝』では、押井監督にガス抜きしてもらう必要があったんです。大がかりな作品ばかりでは、誰だって疲れてしまいますから。それで、コストは掛けず、その代わり作りたい映画を好きなように作ってもらう。そのために、役者を使わず社内の人間が演じる、という形になったわけ。世に出たは良いものの、あまりの恥ずかしさに、なかなか娘に見せられなかったくらいです(笑)。見せたら結構気に入ってくれたので、ホッとしていますけどね。 |